Forward to 1985 energy life 代表理事ごあいさつ

寄稿:正しいパッシブデザインを普及させたい

 

一般社団法人Forward to 1985 energy life
代表理事 
住まいと環境社 野池政宏

私がやっている仕事を簡単にご紹介すればこんな感じです。

■他の人があまり取り組んでいないことで「これはきっと世の中の役に立ちそうだなあ」と思うものを探す
■それをかなり徹底的に調べ、理解し、整理する
■そこで得られたことを他の人にわかりやすく伝える準備をする
■準備ができたら伝え始める
■伝えながら、さらに理解、整理、伝え方を進化させていく
■伝えたことに賛同、共感してくれる人たちとの仲間づくりをする

私が「住宅」という分野に首を突っ込み始めたのは1990年くらいですが、そこからずっとこうした仕事を続けてきました。もう30年近くになることに自分でも驚きます。その間に取り組んだテーマ(世の中の役に立ちそうなこと)は様々です。ラッキーなことに、そうして取り組んだほとんどのテーマで、社会的に一定の評価を得ることができました。本を出版させてもらい、講演に呼ばれ、会社や商品を向上させるお手伝いのオファーがくる、という状況がずっと続いています。

そういう私が2008年頃から取り組んできた大きなテーマが「パッシブデザイン」です。パッシブデザインは「そこに暮らす人の幸せ」と「社会的な意義」が両立するものです。そもそも私が「世の中の役に立ちそう」と感じるのは「個人と社会」の両方にメリットがあるものに限られます。とても便利で個人には大きなメリットがあるものでも、それが社会的なデメリットにつながるものは「世の中の役に立ちそう」とは感じないのです。

実際のパッシブデザインがどんなものかということについては、MiRaieのホームページを見ていただければわかると思いますが、私なりにパッシブデザインをわかりやすく表現すれば「最小限のエネルギー(ランニングコスト)で、最大限の心地よさ(冬暖かい、夏涼しい、風が通る、明るい)」が実現する住まいを目指す設計手法、となります。

こうした住まいを実現するためには(つまり、パッシブデザインを成功させるためには)、幅の広い正確な知識・理解をベースに、綿密で繊細な設計を進めていく必要があります。なぜなら、住まい手が心地よいと感じる室内環境は全国的にほぼ同じでも、その住まいの気象条件や立地条件(日当たりや風の状況)が違うからです。つまり、日本全国で同じ家を建てたとしても、同じ心地よさは得られないということです。

適切なパッシブデザインができる設計者は、そうしたことを十分に理解して、「この地域のこうした立地条件で、こんな住まい手からの希望を実現しつつ、最小限のエネルギーで住まい手が心地よいと感じる住まいのあり方(設計内容)はこれだ!」というのを見つけ出す作業を行います。

ちなみに、最近は住宅の断熱性能も向上してきていて、よほど意識の低い住宅会社を選ばない限りそれぞれの地域に合った断熱性能は確保できるようになっています。でも、断熱性能だけでは最大限の心地よさ(冬暖かい、夏涼しい、風が通る、明るい)は得られません。冬は断熱性能に加えて「日射取得性能」を向上させることで、さらにレベルの高い心地よさと省エネルギーが実現します。夏はしっかり日射遮蔽(しゃへい)をして、風通しがよくなる工夫を組み込むことが必要です(断熱性能を高めるだけでは夏の心地よさは実現しません)。さらに「自然の光をうまく採り入れ、それを家の奥まで導くような工夫をすることで、心地よい明るさが得られます。

ここ最近になって、「こうしたパッシブデザインをしっかり勉強して、理想的なパッシブデザインを実現させる住まいを提供することがプロとしての責任だ」と思う人が増えてきました。とても素晴らしい傾向だと思います。

そしてこのMiRaieの塩田さんもそれを代表する人のひとりです。熱心に、継続的に勉強会に参加され、実績を重ね、着々とパッシブデザインの技術を向上させてこられました。そして私が塩田さんを見ていて感じるのは、「すごく楽しそうにパッシブデザインの話をする」というところです。そんな姿は本当に素敵だし、そうしたところがお客さんにも伝わるんだろうなと思います。

「自分たちがほしい家はどういうものだろう?」ということをしっかり考え、いろんな情報を得るほどに、塩田さんがしゃべることの意味や重要性がわかると思います。そうやって家づくりを進めることは本当に楽しい作業になるはずです。そんな作業を重ねて、「最小限のエネルギー(ランニングコスト)で、最大限の心地よさ(冬暖かい、夏涼しい、風が通る、明るい)」が実現する住まいを建ててください。